とても良く聞かれる質問ですが、それぞれの作品を見比べると、はっきりと線引きができる違いはありません。「切り絵」の含む意味は広範で、「剪画」はその中に含まれると言って良いでしょうか。
「切り絵」は黒い紙を切り抜いて描く「剪画」のようなものから、寄席で行われるはさみでお題を切り抜いて作るもの、様々な紙を切り抜いて貼り合わせる「貼り絵」の範疇まで含まれています。西洋で行われている、人の横顔をはさみで切り抜く「シャドーピクチャー」も切り絵のうちに入るでしょう。
「剪画」は約20年前に日本剪画協会が、その「切り絵」の中から作品を区別するために作り上げた造語です。中国にある「剪紙」の切るという意味の「剪(せん)」と絵画の意味である「画」を併せて作りました。剪の文字は見た目に意味がわかりやすいのですが、読み仮名がわかりにくく、一方「せんが」と発音すると「線画」という文字を思い浮かべてしまい、意味が伝わりにくいのが欠点です。ですが、剪画の制作方法や、仕上がった絵のシャープな感じ、そして何よりも剪画を追求してゆく制作者の作品を仕上げている時の感覚にピッタリな言葉であります。
なぜわざわざ「剪画」という造語を作ったのか?「切り絵」は先ほど説明したように様々なものがあります。寄席でお三味線の音に合わせて切り抜かれる「切り絵」は、大道芸・パフォーマンスの範疇に入るでしょう。色紙にちょっとした図案を切って貼れば工芸のような感じで仕上がります。そうした様々な「芸」であるところの「切り絵」から、アートとして1枚の絵を仕上げるものを区別する必要があったのです。
工芸かイラストかアートか…その定義は様々なものがあり、簡単に回答することはできません。が、一番確かなのは、作り手がどんな意識を持って作っているかということです。
生活と密接に関わってゆく工芸、ストーリーや何らかの状況を説明するためのイラスト、芸術作品として仕上げられたアート…。作品一つ一つを見ればその違いはわかりにくいでしょう。あまりこうした区分けは意味のないことなのかも知れません。ただ作り手がどう意識して作ったかという思いが、その区別となるのではないでしょうか?
そうした意味で、「剪画」は常に1枚の絵画作品として完成させるべく制作されています。つまり、「切り絵」と「剪画」の違いは「作り手」がどういう意図持って制作するかという違いであるということができるでしょう。